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東京家庭裁判所 昭和32年(家)12605号 審判 1958年7月04日

申立人 山本定子(仮名)

相手方 山本甲子郎(仮名) 外二名

主文

一、被相続人山本智の遺産を次のように分割する。

二、申立人山本定子及び相手方山本甲子郎の共同取得分(持分定子五分の三、甲子郎五分の二)

(一)  横浜市○○○区○○○○○番地所在

一、木造スレート葺二階建居宅一棟

建坪一階三坪七合五勺、二階以外四坪五合(未登記)

(二)  同所同番地所在

一、木造スレート葺平家建居宅一棟建坪二六坪(未登記)

(三)  同所同番地所在

一、木造スレート葺二階建居宅一棟建坪一階三〇坪五合、一階以外七坪九合七勺

附属

一、木造亜鉛葺平家建物置一棟建坪一坪七合五勺(何れも未登記)

(四)  同所同番地

一、宅地 三六一坪九合(但し公簿上は横浜市○○町字○○○○○○番地畑一反一畝一二歩)

(五)  前記(三)家屋内所在の動産一切

(六)  千葉県○○郡○○○町○○○字○○○○○○番地ノ一相手方山本景子方所在の別紙目録記載の動産類

(七)  ○○○○株式会社株式五〇株

三、相手方山本景子及び相手方山本恵子の共同取得分(持分景子二〇三分の一五〇、恵子二〇三分の五三)

(一)  千葉県○○郡○○○町○○○字○○○○○○番地ノ一

一、宅地三八一坪

(二)  同所同番地ノ二

一、畑五歩

(三)  同所同番地所在

一、木造瓦葺二階建住家一棟

一階四一坪七合五勺一階以外二〇坪

附属

一、木造亜鉛葺平家建物置一棟建坪四坪五合

一、木造亜鉛葺平家建炊事場一棟建坪一坪五合

(何れも未登記)

(四)前記(三)家屋内所在の動産一切(但し前記二、の(六)掲記の別紙記載分を除く)

(五)電話加入権○○○局一九番

四、相手方景子及び相手方恵子の両名は前記二、の(六)による別紙目録記載の動産及び(七)の会社株券五〇株を申立人定子及び相手方甲子郎に対して現場にて引渡すこと。

五、相手方景子及び相手方恵子(負担の割合景子二〇三分の一五〇、恵子二〇三分の五三)は申立人定子及び相手方甲子郎に対して(権利の割合定子五分の三、甲子郎五分の二)相続分を超過して相続財産を取得した代償金として金一八万円を支払うこと。

但し本項の代償金一八万円の支払については、相手方景子及び相手方恵子の選択により、現金一五万円の支払と三の(五)の電話加入権を申立人定子及び相手方甲子郎に取得せしめる方法によることができる。この場合には本審判確定の日より七日以内に申立人定子及び相手方甲子郎の両名に対して書面によりその旨通知しなければその選択権行使の権利を失う。

六、審判調停費用は各支出当事者の負担とする。

理由

一、相続人

被相続人山本智の相続人は次の者である。

(一)  申立人山本定子

被相続人の配偶者明治十六年生

現在肩書地に居住し、最近は孫である相手方甲子郎も申立人方にて寝起している。

(二)  相手方山本甲子郎

被相続人と申立人間の長男亡晋(昭和十七年二月死亡)とその妻ふく(昭和十年離婚)との間の嫡出子として代襲相続人の地位に在る。昭和五年生、○○○○大学中退、無職。

(三)  相手方山本景子

被相続人及び申立人の養女(昭和二十三年○月○日縁組)にして前記亡山本晋と内縁の夫婦関係のあつた者で相手方恵子はその間の子である。大正七年生、現在肩書地においてその娘恵子と起居している者、無職。

(四)  相手方山本恵子

山本景子及び亡山本晋との間に生れた婚外子、相手方甲子郎と共に亡晋の代襲相続人、昭和十三年一月生、本審判手続中に成年となる。

二、相続財産

(イ)  不動産(その収益を含む)

(一)  横浜市○○○区○○○○○番地所在

一、木造スレート葺二階建居宅一棟

一階三坪七合五勺

一階以外四坪五合(未登記)

(二) 同所同番地所在

一、木造スレート葺平家建居宅一棟

建坪二六坪(未登記)

(三) 同所同番地所在

一、木造スレート葺二階建居宅一棟

一階三〇坪五合

一階以外七坪九合七勺

附属

一、木造亜鉛葺平家建物置一棟

建坪一坪七合五勺(未登記)

(四) 同所同番地

一、宅地 三六一坪九合

(但し公簿上は

横浜市○○町字○○○○○○番地

一、畑一反一畝一二歩)

(五) 千葉県○○郡○○○町○○○字○○○○○○番地ノ一

一、宅地三八一坪

(六) 同所同番地ノ二

一、畑五歩

(七) 同所同番地所在

一、木造瓦葺二階建住家一棟

一階四一坪七合五勺

一階以外二〇坪

附属

一、木造亜鉛葺平家建物置一棟

建坪四坪五合

一、木造亜鉛葺平家建炊事場一棟

建坪一坪五合(未登記)

(ロ) 有価証券(その配当を含む)

(八) ○○○○○株二五〇株(内五〇株は相続開始後の無償交付の新株)

(九) ○○○○株四五〇株

(十) ○○○○株六〇〇株

(十一) ○○○株一八〇株

(十二) ○○○○○株一八〇株

尚(九)の○○○○株は株式台帳には当時六〇〇株の株主となつているが、昭和三十一年十一月頃被相続人が内三〇〇株を処分し、その名義書換手続が死亡後なされたものである。又その後新株一五〇株の有償割当(株当三五円)があり、相手方甲子郎において合計金五千二百五十円を払込んで、その株式を取得したものである。(十一)の○○○株についても○○○○株同様に内三〇〇株については被相続人が生前処分し、死亡後になつて名義書換手続がなされたものである。(十二)の○○○○○株は親株一四四株に対し相続開始後新株三六株の無償交付があつたことと申立人定子及び相手方甲子郎の審問の結果により認められた。

(ハ) 予金

(十三) ○○銀行○○支店予金一〇万円(及びその利息)

(ニ) 電話加入権

(十四) ○○○局一九番

(ホ) 動産類

(十五) 横浜市所在(三)家屋内所在の動産

(一六) 千葉県所在(七)家屋内所在の動産

(ヘ) 債務

(一) 債権者○○銀行○○支店五万円

(二) 債権者徳山太郎五万円

(昭和三十年二月二十五日借受無利子、旅館費用、生活費のための借受と相手方甲子郎が主張する。)

(三) 債権者土屋文吉五万円

(四) 葬式費用

三、推定相続財産としての生前贈与

相手方山本景子に対する生計の資本としての贈与分

(一)  千葉県○○郡○○○町○○○字○○○○○○番の三

一、畑三畝二〇歩

(二)  同所同番地の四

一、田四畝九歩

何れも昭和二十六年九月十日附を以て被相続人より相手方山本景子名義に贈与による所有権の移転登記が為されている。

四、相続財産の現況及びその現在における評価額

(イ)  不動産

(一)乃至(三)の家屋及び(四)の土地は東横沿線の住宅地街にあり(四)の敷地上の一部に(一)乃至(三)の家屋が所在する。

(三)の家屋に申立人が居住し、その一部を三世帯に一ヶ月計七、六〇〇円の賃料にて貸間し、(一)(二)の家屋は他に賃貸中であり、その後貸料は賃借人河田の分は現在月四、五〇〇円、賃貸人土橋の分は月三、〇〇〇円である。右建物所在以外の土地一九四坪(私道は別)は鐘紡外個人に賃貸し(私道を含む)賃料は坪当り月一〇円合計一九四〇円である。何れも申立人(事実上は甲子郎)に於いて管理にあたつている。

これらの事情から(一)乃至(三)の家屋三棟及び(四)の土地(管理費用を差引いた収益を含めて)を合計の評価額を二三五万円(相続開始当時の評価額は二〇〇万円)とする。

(五)(六)の土地は地つづきで、(七)の家屋はその地上に所在する。右所在地は千葉県○○駅より約半里離れたところにあり、夏期は海水浴客が訪れる程度のところであり、附近住民は半農半漁である。右(七)の家屋は現在相手方景子が相手方恵子と共に居住し、その一部を夏期における避暑客、並に釣客等に貸与し若干の不定期収入を得ており又(五)(六)の土地は地つづきで一部を農地として利用している。右の事情から(五)(六)の土地及び(七)の家屋を附属建物と併せて(管理費用を差引き収益を含めて)二三五万円(相続開始当時の評価額は二二七万円)と評価する。

(ロ)  有価証券は相手方甲子郎において昭和三十一年十二月二十七日、同三十二年二月及び三月の三回に亘つて○○○○○株五〇株を除き代金一六万四千円にて処分し、その代金及び後記(ハ)の預金の一部を以て葬式費用及び債務の弁済に充当したというが、その処分について他の相続人達の承諾を得られることを予想していたものと認められ且又現在の株価に徴してその処分金額は不当と云えない。尚右の売却代金一六万四千円から前述の○○○○新株振込金五千余円を差引いた残り一五万八千余円を甲子郎が取得したものである。

次に相手方甲子郎の売却処分洩れとなつた○○○○○株五〇株の株券は相手方景子の居宅にて保管せられているものと思われる。その株価合計は現在一万六千円(配当金も含み)と評価される。

従つて有価証券全部(相続開始後割当てられた新株も含めて)現在の評価額は前記処分により取得した金額と残存している株式の時価の合計であり一七万四千円とする。(尚相続開始当時の有価証券の価額は、○○○○○親株二〇〇株一九七円替、○○○○親株三〇〇株一〇五円替、○○○株一八〇株一八〇円替、○○○○○親株一四四株一八四円替、○○○○株六〇〇株七〇円替であるが、合計金一七万円と評価する。)

(ハ)  預金は○○銀行○○支店に普通預金一〇万円あつたが、被相続人死亡後である昭和三十一年十二月八日相手方甲子郎が解約し、元利金一二万三千円を受領取得したものである。しかし後述のように前記(ロ)の売却処分代金と合せ、その一部から債務及び葬式費用の支払に充てたというのである。

(ニ)  電話加入権○○○局一九番については相手方山本景子が居住している(七)の家屋内に架設せられてあり、同相手方が利用しているものである。三万円と評価する(相続開始当時の評価も三万円とする)

(ホ)  動産類

被相続人の衣類その他居住、所有家屋に所在する動産については申立人定子及び相手方甲子郎居住の(三)の家屋内に所在するものは、同人等において使用中であり、相手方山本景子母子の居住する(七)の家屋内に所在するものは、同相手方等において使用中である。その評価については、横浜市所在の(三)家屋内のものは都邑地所在であり千葉県所在の(七)の家屋内にあるものは田舎であるが、旅館営業用のものもあるため、これらの事情を考酌して何れも同様に家屋価額(土地価格を考慮しない価額の約一割の価額のあるものと認定し、前者を金六万円、後者を一八万四千円と評価する(相続開始当時の評価は前者は五万円、後者は一六万円とする)その他賃貸家屋内所在の動産等は従物として右賃貸家屋の評価に包含する。

(ヘ)  債券、葬式費用

相続債務については、○○銀行○○支店に五万円(手形貸付)あつたが、昭和三十二年一月九日相手方甲子郎が株式売却代金にて弁済したものである。

尚相手方甲子郎は徳山太郎に対して相続債務五万円の負担があり、それも亦前記株式代金等にて弁済したと云うけれども、債務の存否並に弁済について明瞭に確認できないので、本件分割においては、この点を考慮斟酌せず、別に法の規定により債務の分担を定めるべきものとする。又土屋文吉に対する相続債務も同様に取扱う。葬式費用については相続財産の負担に帰するを相当とすべきところ、その葬式費用として相手方甲子郎は一五万円を支出したと言い、相手方景子は三万円にすぎないと争つているところであるが、本件被相続人の葬式については、それ相当の香典収入もあつたこと、その他諸般の事情、殊に横浜及び千葉の二ヶ所にて葬儀が挙行せられたこと等を参酌して相続財産の負担に帰すべき分として前記預金の解約金から○○銀行に対する債務五万円を支払つた残額七万余円の程度を相当とする。従つて仮りにそれ以上支出があつたとしても、それは支出者において負担すべきものとする。而して本件については相手方甲子郎がその葬式について主宰したものであり、その費用も前記(ハ)の預金を以て支払つたものであるから、右預金解約金銭を超える分については、同人において分担すべきものとする。

五、推定相続財産としての生前贈与財産の現況及びその相続開始時の評価額

被相続人より昭和二十六年九月十日附贈与による所有権移転登記によつて相手方景子名義に帰した前記二筆の農地については、相手方景子は、右は被相続人の相手方景子に対する不法行為による損害賠償債務の履行として為されたものであつて、決して生前贈与としてその所有権を取得したものでないと争う。即ち被相続人は婦人に対して全く変態的な性格の者で、親戚の娘、女中等にも手をつけ、女中の親には千円の賠償金を支払つたことすらあり、相手方景子亦この被害者である。そのため曾て被相続人の存命中その事情を申立人定子に訴えたこともあつたが、同女は被相続人が老人の事であるとして深く取上げなかつたものである。しかし相手方景子は到底これに耐え切れなかつたので、同居中実家に逃げかへつたこともあつたが、被相続人は自分の非行を詑びて景子の帰宅を懇請し、代償として前記田畑二筆の提供を申出でたので相手方景子も娘恵子のことと思い併せてこれを諒承し被相続人のもとに帰つてきたものであつて、右の田畑は決して生計の資本としての生前贈与でないといい、これらの事情は、事情が事情であるだけに申立人定子、相手方甲子郎にも知らされておらず、養子縁組の証人谷川治郎が知つている位であるとしてその旨の上申書を提出するところであるが、同相手方は再三の審問期日に出頭せず、且又その賠償内容と云うものが相当価額の不動産であつたこと、並に同相手方は相手方甲子郎とも関係のあつたことを疑われるような性格の者であつたこと等から判断して必ずしも相手方景子の上申書記載事実が真実とは思われないので、一応その外形的事実通り生計の資本としての生前贈与と解するを相当とする。(尤も相手方景子代理人はこの点について証人調べを求めるところであるが、当該関係者である相手方自身さえ事情聴取のために出頭しなかつた位であるから任意同行又は出頭の上供述審問に応ずるは、格別、第三者に対して敢て出頭を強制の上の証人訊問はしなかつた)而して右不動産は現在その所有者である相手方景子が使用収益しているところであるが、相続開始当時の時価は田畑合計して合計九万円と評価する。

六、相続人の相続分

本件においては別に被相続人の遺言はないから相続人等は次の法定相続分を有する。

即ち申立人定子は配偶者として三分の一

相手方甲子郎は相手方恵子と共に長男亡晋の代襲相続人であり、相手方恵子が非嫡出子であるので、相手方甲子郎は九分の二。

相手方景子は養女として三分の一。

相手方恵子は長男亡晋の代襲相続人の一人であり非嫡出子であるから九分の一。

申立人定子代理人は相手方景子は、同女と被相続人間においては被相続人の生前に協議離縁の話合が成立しておりそれと共に被相続人には同相手方を相続人から廃除し、一切の遺産を相手方甲子郎に相続せしめる意思を有し、その旨遺言書の作成をせんとまでして、公証人に依嘱したことがあり且臨終頃迄尚その意思に変更がなかつたものであるから、同相手方は遺留分を超えて相続分はないというけれども、遺産等について何等合式の遺言はなく、又相続人廃除或は正式に離縁のなされていないものであるから、申立代理人の抗争するところは理由はない。

しかしながら本件相続について、被相続人は相続人中相手方景子に対して生計の資本として前記土地が生前贈与せられているので、民法九〇三条によりその価額を相続財産に加算して各相続人の相続分を決定すべきところ、この相続分決定についての遺産評価の時期について、(イ)相続開始当時の時に有した財産及び相続開始前の生前贈与分等について何れもの相続開始の当時の価額より計算する。(ロ)何れも分割時の価額によるべきである。(ハ)民法九〇三条による相続分の計算は何れも相続開始当時の価額により計算しこの相続分の割合により分割対象の遺産を分割時の評価額により分割すべきものとするとの三つの見解が考えられるが、(ハ)説によるを相当する。蓋し(イ)説のように相続開始当時の評価により分割するとすれば、分割当時より現在値上りの著しい遺産を取得したものは非常に有利になるが、そうでない遺産の分割をうけたものは不利になる。次に(ロ)説によれば相続開始後遺産分割迄の間における、未分割遺産に対する各相続人の民法九〇三条により計算される相続分が物価の変動に従つて絶えず変動する不合理が生ずる。(ハ)説はこの前二者の欠点を補うものである。即ち民法九〇三条にて相続分を計算するについては、すべて相続開始当時の評価額によるものとするが、これにより遺産に対する相続分、即ち相続の割合が確定した上は、その相続分に従つて、現在分割時の事情に則して分割の対象となる遺産を分割することになり最も妥当な結論が得られることになるからである。

右説示するところによつて本件遺産について検討するに、昭和三十一年十二月○日相続開始当時の遺産価額は四六八万円((イ)不動産(一)乃至(四)は計二〇〇万円、(五)(六)は計二二七万円、(ロ)有価証券は一七万円、(二)電話加入権三万円、(ホ)動産類は(三)家屋所在分は五万円、(七)家屋所在分は一六万円の合計であつて、(ハ)の銀行預金は銀行に対する債務の支払及び葬式費用に充当されたものとする。)生前贈与分の価額は九万円合計四七七万円(想定相続財産額)であつて、分割の対象となる遺産の現在の価額は五一八万四千円((イ)不動産(一)乃至(四)は計二三五万円、(五)(六) は計二三五万円、(ロ)有価証券は一七万四千円、(二)電話加入権三万円、(ホ)動産類は(三)家屋所在分は六万円、(七)家屋所在分は一八万四千円の合計額)となるところ、右に対する民法九〇三条により計算される相続分(相続の割合)は次の通りとなる。

即ち

申立人定子 四六八分の一五九

相手方甲子郎 四六八分の一〇六

相手方景子 四六八分の一五〇

相手方恵子 四六八分の五三

今右の相続分に従つて現在分割の対象となる遺産総額五一四万八千円に対しての相続取得額を計算するに

申立人定子は 一七四万九千円分

相手方甲子郎は 一一六万六千円分

相手方景子は 一六五万円分

相手方恵子は 五八万三千円分

となる。

七、本件分割審判に至る迄の経過の要領

被相続人等が相手方景子と縁組した動機は、相手方景子は被相続人の一子晋の事実上の妻であつたが、入籍手続を了しないうちに右晋が死亡したため同女の処置を憐み、養女の形式にて入籍したものである。ところが相手方景子の性格素行に面白くないところが多かつたため、被相続人等と円満を欠き、夫々双方より離縁についての家事調停の申立が為され、昭和三十年八月二十九日被相続人より相手方景子に一年以内に五〇万円の支払をすると共に協議離縁することの調停成立したが、その支払を了しなかつた為に離縁届が出されなかつたものである。尚右離縁調停中に容易に調停が成立しなかつたため、被相続人より相手方景子に対して相続人廃除の審判申立も意企した模様である。又本件調停手続において、不動産鑑定費用等諸経費のかかるのを避けようとして、一応家裁調査官の評価に従うとの話合もなされたが、相手方景子及び相手方恵子において後日に至り千葉県所在の不動産が横浜市所在の不動産に比して評価額が高価に失するということから話合は杜絶したものである。

次に本件各当事者の分割希望の意見は全員とも現物分割を望み、又相続人各人に対して遺産の割当もさることながら申立人定子と相手方甲子郎は祖母と孫の間柄、相手方景子と相手方恵子は母と子という間柄の事情から、各個人に分割せずとも申立人定子及相手方甲子郎側と、相手方景子及相手方恵子側の両者に分割されることも異存はないというのであり、又分割の希望の財産としては申立人定子及び相手方甲子郎側では横浜市所在の遺産及び横浜の家屋内より千葉の方に持出した物件その他即ち別紙記載の動産類は申立人定子及び相手方甲子郎側において、千葉県所在の遺産は相手方景子及び恵子側において分割取得し、その間の金銭等の清算により夫々相続分に合致せしめたいというのであつて、その結果相手方景子及び恵子側から申立人定子及び相手方甲子郎より清算金二〇万円余程度を支払をうけるべき旨の申出があり、又一応計算上そのことは認められたが、相手方はやりとりなしの解決を望んだため結果、調停成立しなかつたものである。

八、分割の事由

以上相続分及相続についての各相続人の希望意見に基いてその他諸般の事情を参酌して次のように分割する。

申立人定子及び相手方甲子郎の共同取得分(持分申立人五分の三、相手方甲子郎五分の二)

(一)  横浜市所在の不動産即ち二(イ)の(一)乃至(四)合計の評価金二三五万円

(二)  同上動産 同六万円

(三)  株式 同一七万四千円

(四)  千葉県所在の別紙動産 同一五万一千円

計 二七三万五千円分

相手方景子及び恵子の共同取得分(持分相手方景子二〇三分の一五〇相手方恵子二〇三分の五三)

(一)  千葉県所在の不動産即ち二(イ)(ロ)の(五)(六)(七)合計の評価金二三五万円

(二)  同上動産(別紙記載分を除く)金三万三千円

(三)  電話加入権同三万円

計 二四一万三千円分

申立人定子及び相手方甲子郎の相続分合計は二九一万五千円あり相手方景子及び相手方恵子の相続分合計は二二三万三千円であるから、右の如く分割取得せしめることにすると相手方景子恵子両名はその法定取得分を超過して取得する清算金として十八万円を他方に償還すべきことになる。尚相手方景子代理人は電話加入権は二万円に評価されるべきであると主張するから、同相手方の利益のため主文第五項但書の如く定めた。

九、祭祀承継、債務の承継割合、その他

祭祀承継については遺産分割と別個に処理せられるべきものであるから、本件遺産分割については祭祀承継に関する事情を特に考慮しない。殊に申立人定子は遺産分割として仏壇の取得を希望していたが、仏壇は被相続人の遺産ではなく、祭祀承継者において取得すべきものであるから、勿論のことながら仏壇は本件遺産分割の対象より除外した。又債務の承継割合については、本件遺産分割においては葬式費用の一部と前述の○○銀行債務に限り、これを遺産分割において斟酌したが、その他については、本件分割事件とは別個に処理さるべきものとした。

尚審判調停費用については各当事者の自弁とするを相当とする。

最後に本件遺産分割について相手方景子側はその管轄裁判所について争うところであるが、本件申立書記載の相手方甲子郎の住所は東京都であり、又仮りに真実同人が東京都内に住所がないとするも、双方代理人が東京所在の弁護士であり、それに調停手続においても調査官の調査等相当手続の進行がなされているので、当裁判所が処理するを相当とした。

仍て主文の通り審判する。

(家事裁判官 村崎満)

(別紙動産の表示 略)

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